息子へ
白い雲が
ゆっくりと
流れていくのを
今はただ
見上げているだけだけど
もう少ししたら
同じスピードで
歩いていけるだろう
そしてあっという間に
あの雲よりも
早く早く
かけて行くだろう
母は
その姿を
後ろから
じっと見守ることしかできないだろう
白い雲に乗って
上からみていることはできないだろう
名札
私という名札をつけて
堂々と歩いていれば
道行くひとに
私の名を呼ばれていた
それが当たり前だった
いまや
私だけでないたくさんの名札を
つけていなければならなくなった
いちばん大きな名札は
母親
その次は
妻
そして
まだまだ根強い
娘
私はいつしか
追いやられてしまった
それでも私だけは
私の名前を呼び続けよう
私だけは
私という名札を
肌身離さず
持っていよう
深いスープ皿の底で
深いスープ皿の底で
さんかくずわりして
遠い星空を見上げるとき
スープが透き通っていれば
光がすっと差し込むし
スープがどんよりにごっていれば
なかなか光は届かない
暗闇のなかは孤独である
からだは冷たく固まっている
しかし勇気を持って
水面まであがって辺りを見回せば
ここかしこに
似たようなスープ皿がある
深いスープ皿の底で
孤独の夜を食しているのは
わたしだけではないのだ
くるしみにくるまれて
くるしみにくるまれて
しみしみになる
ふかくふかく
ねむりにつきたいのに
あさいところでぷかぷか
ういていなければならない
くるしみ
くるしい
いとしみ
こきゅうをととのえて
いちにっさんで
おきないと
うずにのみこまれて
おぼれそうになる
くるしみにくるまれて
しみしみになる
しんこきゅうして
はくいきをいしきする
だいじょうぶ
いきつづけるよ
だいじょうぶ
まんまるの円の中心に立つ
まんまるの円の中心のように
この世のすべてのものごとから
均等に遠ざかっていたいと
おもう時がある
どこかから遠ざかれば
どこかに偏ってしまうから
ぐるぐると周りを取り囲むものが
しっちゃかめっちゃかやって
ピーチクパーチクいってても
わたしはこの一点に立って
赤ちゃんを抱っこして
ただ微笑んでいます
しわしわになるまで
赤ちゃんの肌に
ふれながら
思う
このやわらかなすべすべの肌が
歳を経てしわしわになるまで
どうかどうか
無事生きていてほしい
と
偶然のために
いつか
どこかの街角で
偶然あなたに再会したい
連絡先が何度も変わって
名前すら頭から消えかかったころに
偶然再会したい
あなたに
ぼんやりとした昔の面影を
冷たき都会の雑踏に
ある日突然見出すことを期待して
あなたが通ったかもしれない道を
何度も何度もたどって
あなたとの人生をもう一度手繰り寄せて
それも偶然のために
あくまで偶然のために
あなたと再び出会うために